メジロマックイーン関連ニュース
アルタイスの姿を目で追いかけていると、ぼくの肩越しに馬券おやぢの声が聞こえた。
「今日は夏みたいにあついし、こりゃ芦毛で決まりだ」
木陰に入れば風は心地よく実に過ごしやすい快適な気候だったが、ひとたび陽の当たる所へ顔を出せばあっという間に焦げ付いてしまいそうなほどに、この日の日差しは強かった。
6月3日東京3Rに出走する馬たちの中で芦毛は安藤勝己が跨るブランニューデイズと、我らがアルタイスしかいない。1、2番人気を分け合っていた2頭を取り上げ、おやぢは「堅い」と言い残しその場を意気揚々と去っていった。
だがおやぢよ、アルタイスは黒いぞ。
この日のアルタイスもやっぱり黒かった。パドック入場時こそ尻っぱねをするなど気性面の荒さを見せていたが、徐々に落ち着きを取り戻していく。
親父の言葉が気になった。「夏みたいにあついから芦毛」。アルタイスは芦毛だが黒いぞ。こんだけ日差しが強いと黒は不利じゃないか。
ファインダーに映るアルタイスの表情が心なしか元気がないように思えてくる。周回を重ねるごとに落ち着いてきたのは、実はバテたからか。
こうなると判断がつかない。落ち着いているのか、それともヘバっているのか。
そもそもどうして夏バテの話になったんだ。あついと言っても冷静に考えれば25度くらいだろう。おやぢよ。
▲ キュートなワタリ編みに、馬格を感じる大きなお尻
▲ バテ気味?
一つ前のレースではレオタツオーが出走していた。
メジロアルタイス同様に高い人気を集めていたが、後方から差を詰めるのが精一杯の競馬で敗れてしまう。
ぼくは彼にパドックで思い切り睨まれていた。「おれがやってやんぞー」という強い意志の表れだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
果たしてあの目は何を訴えたかったのか。
今になって思えば、初めて生で見たレオタツオーも鹿毛の中ではかなり濃い黒っぽい色だった。
▲ そんな目で睨まなくても……
アルタイスはいつものように一頭だけさっさとパドックを後にして本場馬へと向かう。
むろん本場場入場も一番先で、必然的に返し馬も馬場入場の音楽が鳴り始まる前に終えてしまう。
この日のレースは2000mということで1コーナー奥へのポケットへ向けて、吉田豊を乗せたアルタイスはぼくのすぐ前を通り過ぎていく。
その際に声が聞こえてきた。吉田豊がアルタイスに何かを教えるように、あるいは何かを諭すように声をかけ続けていた。
「落ち着いていけば大丈夫だよ」
そんなことを言ったかどうかは分からないが、問題児アルタイスの気持ちが高ぶりすぎないよう優しく言葉を送っているような表情に見えた。ジョッキーはレースだけを取り上げられがちだが、やはりこういう陰の頑張りは見逃せない。
今日のアルタイスはまともにゲートを出るだろうか。
▲ 吉田豊騎手がアルタイスとなにやら会話しながらの返し馬
出た。
今日はすんなりゲートを出ることに成功し、そのまま中団の内でレースの流れに乗っていく。
だが数百メートル走った段階で厳しい展開になっていることが見て取れた。アルタイスしか見ていなかったが、まるでキャンターのように軽く走っている。これは明らかにペースが遅い。
直後に聞いた場内アナウンスでは1000メートル通過が1分2秒の後半か、あるいは3秒ちょうどだったか。痺れを切らした吉田豊が自分から少しずつ動き出す。こうなると競馬としては一番辛い状況になる。
残念ながら今のアルタイスには自分から動いて最後までしっかり走りきるほどの力強さがない。例えスローペースと分かっていても、直線まではじっとしている競馬が合っている。
ジワジワと前との差を詰めながら直線を迎えるが、やはり反応が今ひとつ。
何度か「豊!」と声を挙げたが、前との差は詰まらない。逃げ馬どころかすぐ前の馬も交わせない。モタモタしているうちにアルタイスと同じような位置にいながら、直線までじっとしていたブランニューデイズが最後に急追してきて2着を確保したが、アルタイスは6着に敗れた。
ほてった顔を冷ますためにスタンドの方へと踵を返すと、背中からあの馬券おやぢの声が聞こえた気がした。「やっぱり芦毛だろ」。
この悔しさは、いつはれるのか。
▲ 今日のスタートは5分
▲ 秋にはもっと力強いアルタイスを